長 寿 比 庵
比庵は幼少のころから丈夫でなく、大学生の頃肋膜を患い九死に一生を得たが、私(比庵の孫)の子供時代の記憶では祖父はしばしば下痢や風邪に悩まされて いた。それが93歳(数え年)まで長生きし、現代病である糖尿病、メタボや認知症などには最後まで無縁であった。しかも80歳代以降の晩年の作品は自由闊 達で評価が高い。比庵には自己流の養生法と「絶対に己れは九十まで生きるぞ」との信念があった。
1. 毎朝冷水で洗顔洗頭
冷水洗頭は頭の刺激と気分一新になるほかボケ防止ハゲ防止の効果があるとした。事実比庵は最後までボケの気配もなく頭髪も整っていた。
2. 金銀銅の林檎
比庵にとって欠かすことのできない健康食の一つが林檎だった。朝食にはまず林檎。戦後林檎が 潤沢に手に入るようになると朝は金、昼は銀夜は銅と言って一日に三個食べることもあった。一方野菜は嫌いでもっぱら果物であった。その陰では料理上手の妻鶴代と、鶴代亡きあとの娘明子の苦労があった事は忘れられない。特に戦中戦後の混乱期は大変だったようだ。
3. 間食と夜7時以降の飲食なし
比庵は酒は嗜まず甘いものが好物で食後にお茶と一緒に食べ、間食はせず夜7時以降は飲食なし。
4. 散歩が得意
体育が苦手であった比庵だが散歩は若い頃から得意で朝食前を特に好んだ。晩年は散歩代わりに自宅2階の書斎前の廊下を手をたたき朗詠をしながら往復していたので、近所からお宅は宗教をおやりですかと尋ねられたりしたと娘明子(私の母)は語っている。
朗詠する比庵(90歳)
5. 朗詠
比庵は宴席や祝賀会で挨拶代わりに自詠歌(即興歌が多い)を朗詠している。たとえば朗詠する歌の前に前詠を付けて次の様に吟じたテープが残っている。
前詠
私は老いたる即興詩人 目の前の人物風物を 歌に詠みて一人楽しむ 老いたる私は即興詩人
自詠歌
ほゝじろは 高きところに とまりつゝ いくばくの時を 独りさへずる冬の朝のために朝起きの
歌を作り、出まかせの節で歌いながら起きる習慣もあった。
部屋で胡坐をかいて腕を組み、あるいは炬燵に入って目をつむり無我の境地で声を張りあげて朗詠しているのを家族はよく耳にしていた。また朗詠は腹ごなしには一番だとよく言っていた。
朗詠は今の老人のカラオケと同様に比庵にとって心身の健康法の一つになっていた。
5. 感謝心と無理をしない日常生活
「如何なる時も人に感謝する心と無理をしないことで長生きと勝負する」と比庵は語っているが、この生活態度で過剰のストレスを持たず自己流の健康法を貫いた事が、長生きと最晩年の活気に満ちた作品作りの背景にある。
年よりも 肌はよほど 若しとぞ 恋も出世も 無理をせざれば
最晩年93歳の写真と作品
「清水比庵のページ」 TOPに戻る